「医療を止めない」 被災地の病院を支援

~令和6年能登半島地震 被災地への緊急支援活動

寄稿者:新井 和雄(下館ロータリークラブ会員、第2820地区パストガバナー/緊急災害支援隊)

能登半島地震発生

元旦の所作を終え、茨城県の自宅で典雅な雅楽の調べに京の友から贈られた銘酒を傾けたころ、ゆさゆさと始まった揺れはうたた激しくなり、災いの記憶が脳裏をよぎりました。令和6年1月1日午後4時10分、最大震度7を観測した能登半島地震が発生した瞬間でした。

東日本大震災を経験した私たちは被災者の困難が直観でわかるとはいえ、日に日にあらわになる被災地の惨状を目の当たりにし、支援の手が届きにくい現実にロータリアンとして歯がゆさを覚えました。

能登で地域医療を支える神野正博さんと連絡を取ったのは、1月6日のこと。私と同期のガバナーだった神野さんは、七尾市で恵寿総合病院を経営しています。


神野さん(七尾ロータリークラブ会員)ご夫妻と筆者(写真右)

能登半島の広範囲で水道、道路、空港、港湾、役所、病院をはじめ、多くの社会インフラや住宅が破壊され、治療を必要とする被災者が多数現れました。恵寿総合病院では、いつもの患者のほかに、多くの被災者、そして診療が出来なくなったクリニックからの患者も受け入れ、業務は通常の2~3倍になったそうです。そのような困難に直面し、医師や職員も被災してろくな食事も摂れない中、こんな時こそ「医療を止めない」を合言葉に病院を動かしているというのです。

即決断して緊急支援隊を結成

早速、当地区の大久保ガバナーに連絡して恵寿総合病院のための食糧支援を申し出たところ、即答で「すぐに実行するように」との指示をいただき、「2820地区能登半島地震緊急支援隊」を編成しました。

まず、地区補助金臨時費を申請し、地区内会員の皆さまに寄付をお願いしました。その後、食品製造・販売業を営む会員から食糧を調達し、水戸市から災害支援車両の高速道路通行許可をいただきました。集めた物資は、カップ麺16,680食、500mlペットボトル飲料2,400本、パン250個、栄養ドリンク144本などの食品のほか、除菌ティッシュやペーパータオル、不織布マスク、使い捨てカイロ、ポリ袋、ブルーシートなどの必需品。これらをわずか5日でそろえ、1月11日深夜、4tトラック3台とワゴン車1台に支援物資を積んで恵寿総合病院に向かいました。

トラックから荷下ろし

地域医療のレジリエンスを高める

病院近隣のロータリー会員も皆被災者であり、七尾ロータリークラブの事務局も被災したことから、誰も神野さんには連絡しないよう頼みました。当日も、搬入は私たちだけで行うから、神野さんをはじめ病院職員の方々には「医療を止めない」業務に専念するようお願いしていました。

1月12日午前8時に恵寿総合病院に到着。静かに搬入を始めましたが、神野さんに見つかってしまいました。徐々に手伝いが増えていき、あっという間に保管場所に納めることができました。病院の災害対策本部から支援物資の受領書をいただき、神野さんからは「2820地区の皆さんに“ロータリーのマジック”を見せていただいた」と感謝の言葉をいただきました。

私たちは、数万人の被災者全員に対して平等に物資を配布することはできません。しかし、治療・透析・出産など、被災地で最も困難な状況に直面している災害弱者の方々のために、自らも被災者でありながら「医療を止めない」決意で地域医療を支えている病院のレジリエンス(回復力)を高める支援ができたと思います。

援助活動の最中にも、ほかの病院から転院されてきた女性が出産されました。新たな命の誕生に触れ、能登の未来に胸を熱くしました。

他院から来た妊婦さんたちと災害救援中に誕生した赤ちゃん

関連動画は下記からご覧ください。
恵寿総合病院:https://youtu.be/qOpyJoP3T40
神野理事長:https://youtu.be/BRpEmUjnpus

【寄稿者プロフィール】
新井和雄(あらい かずお)
茨城県下館市(現筑西市)生まれ。株式会社リジリエンス創業者。国際ロータリー第2820地区(茨城県)パストガバナー(2021-22年度)。地区ロータリー財団総括委員長、地区ラーニングファシリテーター。下館ロータリークラブ元会長(2015-16年度)。

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「医療を止めない」 被災地の病院を支援」への3件のフィードバック

  1. 新井 和雄PGの【即決断】と言う迅速な対応、それもこんなに大きな規模でご支援をなさったことに心から感動しております。
    1月11日深夜出発と言うことは、きっと道路もままならない時ですから、どんなに大変だったかと思います。
    これこそが、≪ロータリーマジック≫なんだと本当に思います。
    被災した地域の医療を止めないと言う思いがこのようなマジックを起こしたのだと思います。何度読み直しても涙が出てまいります。
    みな、自分に出来る事をすればよいと思うのですが、しかし、このような大きなことがロータリーは可能にするんですね。すごいって思います。
    このブログを読み沢山の勇気を頂きました。
    RID2730宮崎アカデミーRC 勢井由美子

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  2. 新井会長(筑西広域防火管理協議会会長)の支援について、一言感想を述べさせていただきます。
    発災から間もなく1カ月を迎えても、未だ見つからない不明者の捜索や災害地の地形から復旧が遅れている事実は、改めて私がコメントすることではありませんが、消防職員(協議会事務局員)としてもも、どかしさをとても感じます。しかしながら、全国の消防職員は我々を代表して活動する緊急消防援助隊の活躍を祈り、次にあるかもしれない地元の災害に備え、そのもどかしさを打ち消し勤務しています。
    新井会長から現地に行くとの連絡をいただいたときは、まだ現地の状態がハッキリしない混乱期でした。にも関わらず、即断し、自己の業務を置いて活動をはじめた強い気持ちに感銘しました。可能なら積み込み等の作業をお手伝いしたいところだったのですが、その間もなく出発の連絡をいただきました。支援物資の搬入は言うまでもなく大きい荷台であればあるほど、たくさんの物資を届けることができます。しかし、今回のような災害では大きい車両は大きいほど、リスクが伴います。事実、消防車両の中には、災害現場に行けず足止めになってしまった車両が少なくないそうです。そんな状況下において、4トントラック3台を用いて行かれたことは、とても勇気の必要な活動でした。
    立場が違えど、新井会長の次の支援の時には、ぜひ手伝わせていただきたいと思っております。
    石川県の被災者の皆さま、日本中で応援し支援し早い復旧を祈念しております。寒さに負けず、身体にご自愛され復旧のチャンスをお待ちいただきたいです。
    がんばろう 石川!

    筑西広域防火管理協議会事務局 中山一美

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  3. ロータリーは理論も大事ですが、やはり行動して世のため人のため、社会に貢献することが大事ですね。まさに新井PDGは世界を変える行動人です。当地区から傑出した人物が登場し誇りに思っています。

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