奉仕を通じた学び

2021年インターアクト賞(エッセイ部門)受賞作品より

受賞者:イサベル・オー、メスタ・スマナスカラ(オーストラリア、Balwyn高校インターアクト委員会)

フリンダース通りを歩くと必ず聞こえてくる「チャリン」という硬貨の音。フッと息を吸い込んでから私も「チャリン」と硬貨を容器に入れたが、駅に入るやその音は電車にかき消された。最後にちらりと振り返ると、その男性の希望をたたえた目がこちらを見て、都会の喧騒の中でやさしく「ありがとう」と口が動くのが見えた。街を行き交う人たちは皆、自分のことに没頭して、道端の(ホームレスの人たちが持つ)「Help」(助けてください)と書かれた紙や毛布には気づいていない。大勢の目があるにもかかわらず、そのすべてがスマホにくぎ付けで、地面に座っている人たちからあからさまに目を遠ざけているかのようだ。

電車に乗り込むと、その喧噪が徐々に薄れ、すぐに暖房の温かい空気が体に当たった。両親と体を寄せ合って座り、コートを無造作に膝にかけて、少しずつ遠ざかる高層ビル群を見つめていた。どんよりとした都会が離れていくのを見ながら、背筋が震えた。するとすぐに、あの冷たく無容赦な環境で暮らす人たちを思い、胸がぎゅっと痛くなった。

どんどんスピードを上げる電車と同じように、私の思考も止まらなかった。自分がお金をあげたのは一人だけ。困っている人たちがほかにどのくらいいただろうか。そう考えるうち、駅への道すがら素通りしたほかの人たちも助けたいという猛烈な気持ちが沸いてきた。自分が行動を起こさなければならないことは明らかだった。今年、学校のリーダーたちからインターアクト会長の任を受けた私にとって、今こそ、仲間と共に奉仕の熱意を持ちつづけ、ロータリーの使命を推進しながら人びとの生活を温かくすることのできる機会だった。

その後の日々も、あの男性の姿が脳裏から離れず、少し前の校報を読んでいたときにもまた思い出した。校報のページをめくりながら、カンタベリー・ロータリークラブのロータリアンたちがFORaMEALという行事でボランティア活動をしたという記事が目に入った。肩を並べて、フィリピンの被災地に送る食事を箱に詰める彼らの笑顔は情熱にあふれていた。もっと調べてみると、今年はコロナ禍の影響を受けたメルボルンの人たちのために食事を提供する予定であることを知った。

これは、国際的な組織の一員として懸け橋を築くだけでなく、地元の人たちを助けることのできる大切なチャンス。私はすぐにロータリアン、そしてインターアクト理事会のメンバーに連絡した。食事詰めのボランティア活動に参加するというアイデアをクラブで紹介し、夢中でEメールを仲間たちに送った。世界に変化を生むために貢献できるチャンスに、インターアクターたちは大きな関心をもってくれた。

その日が近づくにつれて興奮感が漂い、ほかの生徒たちも私の話に進んで耳を傾けて、ボランティアがどんどん集まった。

当日、会場のドアが開いて行事がスタート。主催するロータリアンたちが威勢よく短い挨拶をした後で、すぐに活動にとりかかった。仲間たちと一緒に、穀類、豆、米を丁寧に箱に詰めた。ほかの参加者たちと知り合いになるにつれて、楽しさも増していった。みんな、情熱にあふれ、同じ目的をもつ者同士、恵まれない人を助けるという目標のために力を合わせていた。

最後の箱を詰め終えて周りを見回すと、みんな腰は痛そうだけれど、その顔は誇りで晴々としていた。達成感と歓喜で沸き立つ中、私も心が高揚していた。今日感じた喜びは、会場となったこの教会だけでなく、メルボルン全体、そしてあの日、私が駅に行く途中で素通りした人たちにも届くのだ。今日、箱詰めした17,000回分の食事は、人びとが生きるため、そして生活の質を高めるための助けとなるものだ。この大規模なボランティア活動は、コロナ禍で困難に直面している人たちに栄養価の高い穀類や米を届けることで、深刻化している飢えの問題に大きな方法で取り組めることを意味している。    

この活動について振り返っていたとき、たまたまロータリーラーニングセンターの奉仕学習のコースを見つけ、このコースで紹介されている価値観と、インターアクトクラブで行った食事詰めプロジェクトが類似していることに驚いた。地元や世界の食糧問題についてもっと知ろうとする思いやり、その問題に取り組むプロジェクトへのひたむきなコミットメント、行動への熱意、そして何よりも、人びとの人生のために奉仕が果たす重要な役割に関する内省。食べ物がないという苦しみへの理解が深まったことで、私もインターアクトクラブの仲間たちも、奉仕を通じた学びが将来にリーダーとなるための成長につながったと考えている。

そして私は今、チームの仲間たちと一緒に、一食のシンプルな食事がいかに地域全体への思いやりと結束につながるかについて、エッセイを書いている。希望をたたえたあの男性の目を見て大切なことに気づいたあの日を思い出すとともに、今、流れ出す言葉とともに私の目にも希望が宿り出している。

2021年インターアクト賞のそのほかの受賞者(写真、動画)をこちらからご覧ください。

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