アフガニスタンでポリオを根絶する機会

日本でポリオ根絶に携わるアフガニスタン人疫学者が現地のポリオ事情を説明

寄稿者:サバウヌ・ウリシュミン(一般社団法人リエゾン シニア・アドバイザー、元アフガニスタン大統領府 ポリオ根絶フォーカルポイント疫学者)

アフガニスタンは、ポリオ根絶が世界で最も困難な国と考えられていました。その主な理由は、同国政府と当時のソ連の同盟国であるムジャヒディーンとの間の戦争、ムジャヒディーンとタリバンとの間の交戦、タリバンとアフガニスタン政府および北大西洋条約機構(NATO)の同盟国との間の戦争など、長く続いた内戦と国際戦争があったことです。最近の戦争は20年近く続き、2021年8月にはNATOが支援する政府がタリバンに崩壊されました。

この政権交代は、経済的困窮、人道的危機、医療を含むサービスの途絶、女性の政治からの孤立、女子の中学・高校・大学への進学禁止と関連していることが、マスメディアを通じて広く伝えられています。しかし、マスメディアは政権交代に伴う前向きな進展(例えばポリオ根絶のような世界的な健康問題への影響)を無視することが少なくありません。

この国からポリオをなくす機会が訪れている理由

過去40年以上にわたって戦争を経験してきたアフガニスタンの人びとは、これほどの平穏な日常を経験したことがありません。紛争地帯はもはや存在せず、その意味での治安は改善されたと言えます。政変前にポリオ予防接種が行き届かなかった5歳未満の子どもは数百万人いましたが、現在は治安が理由で予防接種できない子どもの数はゼロとなっています。これは、この国におけるポリオ根絶活動のターニングポイントと言えます。また、現政権はポリオ根絶については前向きな姿勢を示しています。

また、自治体のサービスも以前より改善されています。これは、ポリオが衛生問題と深く結びついていることを考えると重要な点です。さらに、砂漠を農地に変えるための大規模プロジェクトや灌漑用ダムが各地で建設中であり、国内農業が発展すれば栄養摂取による子どもの免疫力も高まると期待されます。汚職も削減され、国外からの補助金の不正使用は最低レベルに達しています。

これらの点から、アフガニスタンでは今、ポリオ根絶の機会がもたらされていると言えます。

パキスタンとアフガニスタンの国境にあるポリオ予防接種所で働く保健ワーカーたち(2021年9月20日)

アフガニスタンでは、2023年9月現在、34州中30州で18カ月以上ポリオウイルスが検出されていません。この進展は主に、紛争地域で苦難に見舞われ、あるいはアフガニスタンでのポリオ根絶のために自らを犠牲にして献身してきた第一線ワーカーたちのおかげです。例えば、2021年3月(政変前)にはジャララバード(ナンガルハル州)でポリオ・ボランティア3人が襲撃されて死亡、6月にはポリオワクチン投与ボランティア6人が正体不明の武装集団に射殺されました。ただし、私の知る限り、政権交代後にナンガルハル州でこのような事件はまだ報告されていません。

アフガニスタンにおける課題

このように好機を迎えているとはいえ、野生型ポリオウイルスの伝播が再確立する危険性は今も存在し、アフガニスタンとパキスタンの双方に大きなリスクをもたらしています。次のような課題が残されています:

  • 東部地域における免疫力の格差:現在、すべてのポリオ症例は、東部のナンガルハル州から報告されています。政変前にワクチン接種者が襲撃される事件が2度あった結果、一時的にポリオ・キャンペーンが延期されたことに加え、同州では何年もアクセスが悪かったため、5歳以上のワクチン未接種の集団が存在します。また、同州には多くのワクチン拒否者が散在しています。
  • 戸別訪問ができない:これは特に南部地域では大きな課題です。戸別訪問が許可されていない場合、対象児童の50~60%にしか予防接種を行うことができません。
  • 人道危機:数十年にわたる紛争、治安悪化、自然災害、政変、貧困、国際援助の激減に伴う経済縮小、資産の凍結などによる人道危機もあります。国連の予測データによると、2022年11月から2023年4月までの間、栄養失調の子ども・女性の数は400万人以上となっています。
  • 脆弱な定期予防接種プログラム:アフガニスタンの保健システムは寄付者(ドナー)からの助成金に依存していますが、保健システム、特に病院部門への資金が減少しており、定期予防接種プログラムの強化が困難になっています。
  • 劣悪な衛生環境:衛生状態は全国的な課題であり、特にポリオが常在する東部地域でポリオウイルス蔓延の要因となっています。

ポリオ根絶実現に向けたアクション

今はアフガニスタンにおけるポリオ根絶には絶好の機会だと私は考えています。紛争がなく子どもへのアクセスが改善されている現在、国全体で質の高いキャンペーンを実施すべきです。しかし、そのためには、タリバンの指導者に戸別訪問のポリオ・キャンペーンを許可するよう説得し、保健システム(特に病院部門)への資金援助を再開させて国内でポリオの有無を検査できるようにし、人びとの基本的な保健のニーズ(清潔な水の供給、衛生システムの改善、補助食品の提供など)に対応し、定期予防接種率を高める必要があります。

保健システムの強化にはより多くのリソースが必要とされるため、寄付者や寄付団体、寄付国からの継続した支援が欠かせません。ポリオ常在国や蔓延国の政治指導者がコミットメントを表明するだけでは不十分であり、各国の指導者がコミットメントを行動に移すよう動機付ける必要があると、GPEIのパートナーは考えています。

日本政府やロータリーによるアフガニスタンのポリオ根絶への長年の支援に感謝するとともに、根絶を達成するための継続的なパートナーシップに期待しています。私自身も、ポリオのない世界を次世代に残すため、積極的に貢献していきたいと思います。

今回の記事を寄稿する機会をいただき、ありがとうございます。本稿についてご質問がある場合、または例会や行事でのプレゼンテーションを希望される場合には、contact@projectliaison.orgまたはw.sabawoon@projectliaison.orgまでご連絡ください。

【寄稿者プロフィール】
サバウヌ・ウリシュミン(WRISHMEEN SABAWOON)
1999年にカブール医科大学を卒業。ナンガハール州でプライマリ・ヘルスケア(PHC)研修担当官として勤務した後、公衆衛生省でPHCディレクターを務める。非営利組織のInternational Medical Corpsで保健・情報システム・栄養マネージャーおよび州コーディネーターとして勤務。2005年、日本政府(文部科学省)からの奨学金を得て東京大学に入学し、医学の博士号を取得。2013年~2019年には世界ポリオ根絶推進活動(GPEI)の一員としてアフガニスタンの大統領ポリオ根絶フォーカルポイント事務所で疫学者として勤務。2019年10月に政情不安のため再び来日。2021年10月より早稲田大学客員研究員。現在、一般社団法人LIAISONのシニア・アドバイザーとして、GPEIを通じて日本におけるポリオとグローバルヘルスに関する人びとに認識向上に取り組む。

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10月24日は世界ポリオデーです。ポリオ根絶活動の詳細ご支援の方法も合わせてご覧ください。

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