最も貧しい国での豊かな生活

寄稿者:江田慶子(2019-20年度ロータリー財団奨学生)

電気もガスも水道もない場所で本当の異文化理解

シアバターを生産する女性(写真提供:江田慶子)

私が青年海外協力隊として4年間を過ごしたブルキナファソは、世界でも最も貧しい国のひとつで、国連開発計画(UNDP)による人間開発指数(HDI)では、189カ国中182位(2019年度)と最下位近くに位置しています。

私の配属先の女性組合では、伝統的な手法でシアの実から採れるシア脂(シアバター)を生産・加工・販売することで貧しい女性たちの収入向上を目指していました。赴任当初の私は、そこで働く女性たちが約束の時間に毎回遅れてくることにとてもイライラしていました。というのも、待ち合わせの時間から1時間以上待たされるのは当たり前、時にはすっぽかされることもあり、その度に「急用ができたから」とまったく悪びれる様子がないのです。口論が重なり、なかなか思うように仕事も進みませんでした。

半年を過ぎたころ、やっと現地の生活事情が分かってきました。女性たちの生活は私が思っていた以上にとても忙しかったのです。電気もガスも水道もないこの村では、井戸から水を汲み家まで数往復し、石を3つおいただけの釜戸で食事をつくり、機械も使わず畑を耕します。そのどれもが毎日の生活においてとても重要なことでした。さらには、近所で結婚式やお葬式があれば手伝いに行き、道すがら人に会うと立ち止まり、握手を交わして長い挨拶をします。ブルキナファソには日本のような社会保険制度がないぶん、病気になった時、職を失った時、困った時に助けてくれるのは親戚や友人で、「人財」こそが保険の代わりとなっていることも後になって分かりました。誰もがこういったお互いの事情を理解しているからこそ、1時間程度の遅れは当たり前のことで、日本の環境からは想像できないたくさんの正当な理由があったのです。

その後は、私もイライラすることが少なくなり、「ビジネスにおいて、なぜ時間を守ることが大切なのか」を少しずつ彼女たちに伝えることで、お互いを理解できるようになりました。「異文化理解」と言うのは簡単ですが、実際に理解するのは難しいことです。だからこそ、分かり合えた時の喜びは大きく、その社会の一員になれた気がしました。4年間かけて、一緒に働くブルキナファソの人びとと何度も議論を交わし、泣いたり笑ったり怒ったりしながら一緒に少しずつ改善を積み重ね、最終的には国内外にシアバターの販路ができて100人を超える女性の雇用につながりました。

「説得力のない答え」ではなく「具体的な解決策」を

ある時、ブルキナファソ人のとても仲の良い友人から「私の人生、これからどうしていいのか分からない。お金もないし将来どうなるか分からない」と泣きながら相談を受けました。私は「なんでそんなにネガティブなの?何事もポジティブに捉えれば乗り越えられるよ!」と答えました。

ですが、日本に帰れば家もお金も心配することのない私と、電気もガスも水道もない家に住んでいて、7人の弟妹をこれから養っていかなければならない彼女とでは、大きな経済的格差があります。私の答えはとても無責任で、なんて説得力がないのだろうと、後からとても後悔しました。

このような状況で悲しい思いをしているのは彼女だけではありません。一見毎日とても楽しそうに過ごしているブルキナファソの人びとですが、現金収入を得る機会がないために、病気になった時に薬が買えなかったり、学校に通うことができなかったりと、経済的な貧しさにより叶えられないことがたくさんあります。

その頃から、ブルキナファソのような国の人びとが抱える問題に対して、「何も説得力のない答え」ではなく、「具体的な解決策」を提示できるようになりたいと考えるようになりました。帰国後は開発途上国の貧困削減に関する研究で有名なイギリスの大学院に進学することを決意し、ロータリー財団からグローバル補助金をいただけることになりました。

ロータリー奨学金で得た学び

留学先の大学院で学んだことのうち大きかったのは、従来の一方的な「あげるだけ」の支援は、人びとの主体性・自主性を奪ってしまい、いわゆる「援助慣れ」や「支援依存」につながるケースが多いということです。これらはブルキナファソで活動している時にも感じていたことです。

例えば、私が働いていた女性組合も、以前から国外のNGOが支援していましたが、つくられたシアバターを(品質にかかわらず)そのNGOが独占して買い取っているような状況でした。女性たちにとってお金が手に入ることはとても良いと思います。しかし、そのNGOが資金的な理由により撤退してしまった後は、一気に収入源がなくなってしまい、かといって他の販売先もないという状況に陥ってしまいました。

これがまさに、ロータリーの重点分野を支援する際にも言われる「持続可能性」の問題だと思います。良かれと思って行った支援が、人びとのやる気や成長の機会を阻害したり、政府の腐敗体質を助長したりすることで、結果的に地域経済を阻害してしまうことは、ブルキナファソだけではなく、他の国でも起こっていることだと学びました。

以前に現場で「感覚」で理解していたことが、アカデミックな研究で証明されたり、理論として言葉にされたことで、自分の中での学びを深め、確信を深めることができました。

ブルキナファソでの日々は私にとってかけがえのない宝物のような時間です。第二の故郷と言える場所、いつでも温かく迎えてくれる家族のような人びと、一緒に切磋琢磨して村の将来について語り合える仲間ができました。そんな大好きな仲間が、あの時泣いていた彼女が、少しでも豊かな生活ができるよう、今後もさまざまなかたちで支援を続けていきます。

【寄稿者プロフィール】
江田 慶子(えだ けいこ)
1986年生まれ、2008年大学卒業。2014年1月、青年海外協力隊として西アフリカのブルキナファソに派遣され、4年間を過ごす。その後、ロータリー財団奨学金でイギリスのイーストアングリア大学に留学。現在は、国のODA実施機関である独立行政法人国際協力機構(JICA)でアフリカ諸国の支援をしながら、「注文の多いシアバター店」というオンラインショップを開設し、ブルキナファソの女性組合からシアバターを輸入して日本で販売している。

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