ラダック成人女性識字プロジェクト

寄稿者:高木直之(かながわ湘南ロータリークラブ)

ラダックは、ヒマラヤ山脈の西の端に位置するインドの自治州で、住民はチベット仏教の敬虔な信者です。国際ロータリー第2780地区とインドのニューデリー・ロータリークラブが、グローバル補助金を得て実施したこのプロジェクトによって、2015年ラダックの州都レーに3つの識字教育センターが開かれ、2017年8月の時点で87名の成人女性が読み書きを身につけました。takagi-blog-1

現地でのプロジェクトは、Mahabodhi International Meditation Centre (以下、MIMC)という仏教団体が中心となって進めてくれました。ラダックでは女性に対する教育が行き届かなかった時代があり、字が読めない成人女性が数多くいます。彼女たちが字を学ぶ最大の目的は、チベット仏教の経典を読み、経を唱えること。上記の写真は2017年の視察時、我々のために経を唱えてくれている女性達のものです。中央の緑のスカーフを巻いた方は、識字センターができる以前、ただの一度も鉛筆を握ったことがなかったそうです。

このプロジェクトは藤沢東ロータリークラブの横田パスト会長とMIMCの創始者、サンガセナ師との交流から生まれました。同師は、草一本も生えていないようなラダックの不毛の地に水を引き、木を植え、僧院、修道院、学校、女子寮、男子寮、養老院、病院、外部からの訪問者向けの宿舎、食堂などからなる、一大拠点を築き上げました。

MIMCのモットーは、「Compassion in Action」 日本語にするなら「慈悲を行動に」でしょうか。慈悲を行動で示すことを第一と考えるサンガセナ師は、貧しい子供たちに教育の機会を、身寄りのない老人達に終の棲家を、病の人々に医療を届けるべく、このセンターを作ったのです。読み書きのできない成人女性に識字の光を届けることもまた、彼にとっては当然なすべきことの一つでした。

プロジェクトによって開かれた識字教育センターは3つ。どれも既存の建物を間借りする形でした。冬は寒いのでカーペットや暖房費も欠かせません。3つのセンターは横田パスト会長により、平等センター、平和センター、友情センターと命名されました。2015年8月26日、MIMC主催の第4回ラダック仏教遺産フェスティバルと並行する日程で、開所式が行われました。このフェスティバルにはインドの防衛大臣(ラダックはパキスタンとの国境にあるため軍事的な拠点)、ブータンの王妃など、数々のVIPが参加していました。2017年に再度現地を訪問した際には、インドの大統領、ラム・ナト・ゴビンド氏の訪問と重なり、ずいぶんと驚いたものです。(下は、大統領を案内するサンガセナ師)takagi-blog-2

センターでは、ミシンも購入しその使いかたを学んでもらいました。この写真を撮影した友情センターでは、同時に編み物の練習もしていました。右端の方がその先生です。作った衣類や編み物は、家庭で用いるばかりでなく、海外からMIMCを訪れる人々のためのお土産として出品しているセンターもありました。集合写真は平和センターでのものです。前列中央の白い服に黒い帽子をかぶっているのが、横田パスト会長です。takagi-blog-3

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このプロジェクトによって読み書きを学んだ女性たちからよせられた感謝の言葉のいくつかを、以下に紹介します。

  • お経が読めるようになりました。
  • 拇印押捺のかわりに署名ができます。
  • 家族の衣服を作ったり、売って利益を上げることもできます。
  • 農作物を市場で売るときに、だまされる心配がなくなりました。
  • 電話番号が書けます。

どのセンターに行っても、女性たちは日本から来た私たちの幸せを祈るお経を唱えてくれました。生徒一同が手を合わせ、目を閉じて声を合わせて唱え続けます。経典が読めるようになった喜びと感謝の心が、経文の一音一音に乗り移っているかのようでした。

横田パスト会長の会長年度の国際ロータリー会長テーマは、「ロータリーを実践し、みんなに豊かな人生を」でしたが、まさにラダックの女性たちに豊かな人生を届ける、すばらしいプロジェクトとなりました。会計の面倒をしっかりと見てくれた、ニューデリー・ロータリークラブの皆さんにも大変感謝しています。

ラダックの標高は3500メートル、到着してすぐに動き回ると高山病になるので、休息が必要なほどです。冬は寒く農耕はまったくできません。土地はやせており、川から水が引けるところで春から夏にかけて農作物を育て、冬はじっと春を待つようなところです。人々はこの地でチベット仏教の教えをひたすら守り、助け合って生きてきました。ラダックにはホームレスや凍死者はいないと聞きましたが、それは仏教の精神がいきわたっているからでしょう。

サンガセナ師との会話の中で、深く心に残った言葉があります。それは、「One seed can make the whole world green」「たった一粒の種でも世界中を緑にすることができる」でした。それを聞いて、同師こそがラダックにまかれた一粒の種ではないかと思いました。ポール・ハリスもまたロータリーという一粒の種をまき、世界を変える一助となっています。横田パスト会長が、MIMCと共にまいた識字教育の種は、立派に花をさかせ、実を結びました。我々一人ひとりが、それぞれの「一粒の種」をまき続ければ、必ずやよりよい世界を我々の子供や孫の世代に残せるに違いありません。

ラダックには数多くのゴンパと呼ばれる僧院があり、チベット仏教の遺産が大切に受け継がれています。最後にその中の一つ、ティクセー・ゴンパの写真をお届けして、終わりたいと思います。takagi-blog-5

ラダックの青空のように澄みきった心で生きていけたらと念じつつ。

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ラダック成人女性識字プロジェクト」への1件のフィードバック

  1. 心の交流から、素晴らしいプロジェクトです。
    勉強になりました。ありがとうございます。

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