安全な出産でホンジュラスの母子を守る

寄稿者:井上 毅(相模原橋本ロータリークラブ)

トロヘスCMIエコー検査_看護師皆さんはホンジュラス共和国をご存知でしょうか?

ホンジュラス共和国は、中央アメリカ中部に位置し、首都はテグシガルパ。日本からの直行便はなく、その距離からも日本とは縁の薄い国と思われるかも知れませんが、1935年2月外交関係樹立から80年以上の友好関係が続いています。民間の国際支援でも多くの日本人がホンジュラスで活躍しています。

私たちのクラブは、現地のダンリ・ロータリークラブ、岡山県に本部を置く非営利法人AMDA社会開発機構(AMDA-MINDSと協力して、ホンジュラスのエル・パライソ県で、新生児と妊産婦死亡率の改善を目的とする「El Paraiso Safe Childbirth Project(エル・パライソでの安全な出産プロジェクト)」を実施しました。このプロジェクトはロータリー財団のグローバル補助金110,000ドル(約1,200万円)を活用したものです。

本プロジェクトでは、エル・パライソ県内の5カ所(エル・パライソ市、トロヘス市)の母子保健センターおよびエル・パライソ県保健事務所、ダンリ中央病院へエコー(超音波診断装置)他を設置し、医師・看護師に対するエコーの使用法や検査の研修を行いました。参加した医師・看護師の多くは、今回初めてエコーを扱ったそうです。ダンリ・ロータリークラブ会員でもある産婦人科医、エドガルド・バレラさんが研修を担当し、プロジェクトで導入したエコーを用いて実際の妊産婦に協力していただきながら、10日間の実地研修と3日間のフォローアップ研修を行いました。専門医の少ないこの地域で看護師もエコー検査ができるようになったおかげで、医師の負担が減るだけでなく、看護師の意識向上にもつながり、成果は期待以上でした。視察で訪れる度にスキルアップしていくスタッフの姿を拝見し、とても心強く感じます。

当初の課題とニーズ
エル・パライソ県では、山間部の村々に住む妊産婦にエコー検査の周知を図ることが一つの課題でした。せっかくエコーを導入しても、妊産婦に利用されなくては意味がありません。そこで、現地ボランティアの力を借りて、エコー検査に関する啓発活動を通じて多くの妊産婦に受診を勧め、リスクの少ない施設分娩を推奨しました。貧困層の多い山間部では、今でもお産婆さんによる自宅での出産が多いのです。

Sagamihara-hashimotoエコー検査は、一般のクリニックではとても高額です(約600レンピラ)。貧困を抱える同国でエコー検査を受けられる妊産婦は、都市部に暮らす生活にゆとりのある一部の方だけです。多くの妊産婦、特に山間部に住む妊産婦は、都市部までの交通費や宿泊費、エコー検査費用などを工面できず、事前に胎児の状況も把握できないまま、多くのリスクを抱えた出産となります。エコー検査では、妊娠の早期発見、正確な出産予定日の決定だけでなく、子宮外妊娠、前置胎盤、子宮外妊娠、逆子、双子、胎児死亡(死産含)などのハイリスク妊婦を早期に発見し、設備の整った病院に搬送することができます。

エコー機器をどこで調達するかも重要でした。当初は高機能の国産メーカーの導入も検討していましたが、現地でのメンテナンス体制に不安がありました。また、事前の視察の際に、「高機能よりも携帯性」という現地のニーズがあることを確認しました。車の入れない山村へエコーを持参して検査を行う必要があるからです。現地の販売代理店にも足を運び実機を確認した結果、出張メンテナンスに対応しており、持ち運びが可能な機器を現地のDIMEX社で調達しました。

パートナーとの協力
協力団体AMDA-MINDSは、ボランティアの研修だけでなく、プロジェクトや視察のコーディネートから通訳(公用語はスペイン語)まで多岐にわたり力添えをいただきました。現地の事務所に日本人スタッフが常駐しており、渡航前の現地との連絡や事業の進捗確認といった実務だけでなく、道路事情の良くない現地での移動、安全性の確保(ホンジュラスの治安はあまり良くない)、政治的な意味も含めた地域社会の情報、現地の人たちの考え方(ホンネ)など、きめ細やかな情報を正確に日本語で得ることができ、プロジェクトの成功には欠かすことのできないパートナーでした。

また、医師・看護師の研修を引き受けてくださったエドガルド・バレラ医師(ダンリ・ロータリークラブ所属)の存在は本プロジェクトの成功の大きな要因と言えます。

エコー検査を受けたお母さんの声

(3)シルビアさん2

シルビアさんとフェルナンダちゃん

このプロジェクトを通じてエコー検査を受けた母親シルビアさんは、検査で「リスクあり」と診断され、中央病院で帝王切開により無事長女フェルナンダちゃんを出産しました。

シルビアさんはこう話します。「エコー検査で前置胎盤および子宮筋腫が発見されたため、通常より頻繁に妊婦健診がありエコー検査を受けました。毎回150レンピラ(約670円)を支払いましたが、良心的な費用だったので支払うことができました。私立クリニックではエコー検査に600レンピラ(約2700円)かかると言われたので、私にも手の届く費用で検査を受けることができ感謝しています」

私たちが得たもの
最後に相模原橋本ロータリークラブでの成果です。ニーズの確認や現地クラブとの調整、機器の選定、進捗確認や問題への対応など、事業終了まで全11回、現地を訪問しました(1回平均9日間)。プロジェクト実施中は、実に3カ月に一度のペースで視察渡航をしたことになります。実際に現地へ足を運び、現地クラブの例会に参加することはもちろん、研修に参加し、保健センターや医療機関、他NGO、駐ホンジュラス日本国大使館などにも積極的に訪問して情報交換を行いました。

現地を訪問した会員の世界観も広がり、幅広い知見が得られたと思います。ホンジュラス日本大使公邸での会食会へのご招待や、ホンジュラス保健大臣への表敬訪問もありました。もちろん、貴重な時間を費やし、視察費用を負担してくれた会員の並大抵でない苦労を忘れてはなりません。苦労を重ねたからこそ、達成感も相当なものがあります。

創立5年目の相模原橋本ロータリークラブが「より高く、より深く、より広く」発展した貴重な経験となりました。当クラブのFacebookページからも本プロジェクトの数々の写真をご覧いただけます。

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