ミャンマーの学生を支え続けて29年

~ 今泉清詞氏(今泉記念ビルマ奨学会創設者、川越ロータリークラブ会員)とのインタビュー

国際ロータリー地区ガバナー(第2570地区)を務めた1993-1994年度、今泉清詞さんは地区のスローガンを「建前より本音  形式より内容を」としました。25年経った今も、その姿勢は変わっていません。

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今泉清詞さん(川越ロータリークラブ会員)。鶴ヶ島市にあるご自宅にて。

戦時中に亡くなった戦友たちのため、そして、ミャンマー人に命を救ってもらった恩返しとして、30 年近く前に今泉記念ビルマ奨学会を設立。約180人ものミャンマー人学生に奨学金を提供してきました。今ではその卒業生たちが奨学会の運営を手伝い、地元鶴ヶ島市(埼玉県)とミャンマーとの交流が進んでいます。鶴ヶ島市で開かれた同奨学会のパーティーには、ミャンマー大使も出席するほど。この縁がきっかけで、鶴ヶ島市が2020年東京オリンピックの際にミャンマー選手団の受入都市になることが決まりました。

今回、94歳にして現役ロータリアンである今泉さんから、ミャンマーやロータリーへの思いを伺いました。

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ミャンマーで亡くなった戦友たちへの思い
私は、体は純然たる日本人ですが、心はミャンマー人みたいなんです。(第二次世界大戦で)当然ミャンマーで死んでいなければならないところを、運命的に生きて帰って来ました。私が所属していた中隊では、中隊長以下全員が亡くなり、私は生きていることが申し訳ないという気持ちを70年間持ち続けています。ミャンマーに駐留した日本の軍人32万人のうち、19万人が亡くなり、13万人が帰ってきました。亡くなった戦友は、みんな現地で葬っていただいています。これらの戦友たちに安らかに眠ってもらうためにも、ミャンマーが平和で繁栄し、日本への親しみを抱いてもらいたい。それが生きている者の務めだと思っています。

おかげさまで、鶴ヶ島市やロータリーなどいろんな方面から協賛や支援をいただき、今は私が望む以上にミャンマーと日本との関係が親密になっています。これは何よりの喜びであり、天国に眠る19万人の戦友たちも喜んでくれると思います。私があの世に行ったときに亡くなった戦友たちに顔向けができる、それが今の心境です。

命を救ってくれたミャンマーの人びと
日本が負けて敗残兵となって退散するときは、食べるものも着るものも、何もない状態です。私たちが1日かかってやっと4、5里歩くところを、敵は車や戦車で1時間ぐらいで来ますから、いくら退却してもすぐ囲まれてしまう。するとミャンマーの人たちは、私たち敗残兵に「英軍が来るから、早くいらっしゃい」といって、寝台の下にかくまってくれるんです。英軍兵が1軒ずつ日本兵を探しにくると、「いないよ」といって追い払い、英軍兵が去った後に「いなくなったから出ておいで」といって、ご飯を食べさせてくれる。それが1人や2人ではなく、戦友たち皆が同じ体験をしたのです。日本人でもこれだけのことはできないんじゃないでしょうか。日本兵をかくまっているのを密告されたら、捕まってしまいますから。ですから、命がけでやってくれたわけです。

見返りを期待しない
ロータリーには「最もよく奉仕するもの、最も多く報われる」という言葉がありますが、これを金看板のように掲げるのはおかしいと思います。世の中を見ると、あまりいいことをしていなくても幸せに暮らしている人もいれば、一生懸命社会のためにやっているけれどあまり幸せでない人もいる。ですから、奉仕をしたから報われるというのではないと思うんです。

誰しも自分ひとりで大きくなるわけではありません。人間は生まれて4~5日放っておけば死んでしまいます。健康で生きていられるということは、親や産婆さん、近所のおじいさんやおばあさんに可愛がられ、学校の先生や友だち、社会に出れば何万人という多くの人に助けられています。間接的には道路を歩くにしても電車に乗るにしても、みんな多くの人から恩恵を受けているわけです。そういうものに感謝し、その恩返しだと思えば、見返りを期待しなくていいわけです。私はロータリー入って50年過ぎましたけど、徹頭徹尾、そういう精神でやってきました。

ミャンマー人の考え方がこれと同じです。ミャンマーでは、日常生活でも「このあいだはお世話になりました」とか「この前はありがとうございました」という挨拶はしません。なぜかというと、やった本人がそれで幸せなんだから十分。お世話になった恩返しとして自分の意思でやったんだから、何も言うことはない、ということです。そこは私のスタンスと非常に似ています。

社会やロータリーへの感謝を忘れずに
ロータリーで私がいつも呼びかけていたのは、人間は誰でも、いろんな人のお世話になって今日があるということです。特にロータリアンは経済的にも家族的にも事業的にも、みんなある程度整っているから今日がある。そのことに対して感謝の気持ちがあれば、社会に対しても、友だちに対しても、恩返しという気持ちで何でもできるはずです。

ロータリークラブでは、普通なら知り合いになれないような人と出会い、友人のように親しくできる、しかも、いい話が聞けるというのは、入会して初めて体験できるロータリーの素晴らしさです。そのありがたさを実感すれば、自分から何かをしたいと思うでしょう。気持ちのない人に「寄付をして」とか「会員を増やして」と言っても無理があります。心の基礎というか、意識が薄いところに上から考え方を浸透させようとしても、それは不可能に近いでしょう。

(『ロータリーの友』2018年2月号 縦組み4~7ページに掲載された今泉清詞さんのストーリーもお読みください。)

(執筆担当:時山)

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>> NHK World News(NHK英語チャンネル、今泉清詞さんを紹介)

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