モンゴルで人びとの命を救う「佐賀方式」

~モンゴルでの肝炎・肝がん対策支援

寄稿者:江口有一郎(佐賀ロータリークラブ会員) 

肝がん死亡率ワースト1の返上を可能にした「佐賀方式」

肝がんは、肝臓にできるがんで、放っておくと命にかかわる病気ですが、早期発見と早期治療により予防が可能です。

私の住む佐賀県は、特に60歳以上の方でC型・B型肝炎ウイルスの感染によるウイルス性肝炎の罹患率が全国でも非常に高く、そのため肝がんによる死亡率で全国ワースト1位が長年続いていました。これを解決するため、2012年1月から県と佐賀大学が中心となってさまざまな手法による疾病啓発プロジェクトを行い、当時、佐賀大学医学部の肝疾患センター長だった私がプロジェクトの責任者となりました。

プロジェクト開始から約8年を要しましたが、県内での肝炎の治療者が段々と増え、同じ時期に治療の劇的な進歩もあり、佐賀県の肝がん死亡率はワースト1位を返上できました。医師を含む全職種の医療従事者や県内の肝炎・肝がん対策の関係者と、県民と自治体や医療機関の橋渡しとなる「肝炎医療コーディネーター」を主軸とした地域ぐるみの啓発と連携によって、検査や治療を受ける人が急増したのです。この手法は「佐賀方式」と呼ばれるようになり、日本のみならず世界でも注目されるようになりました。

モンゴルでも成果を上げた佐賀方式

佐賀大学の口腔外科の名誉教授で、佐賀ロータリークラブ会員である香月武先生は、これまで佐賀ロータリークラブの国際貢献のひとつとしてモンゴルでの口腔外科の医療技術指導に長年携わってこられ、モンゴルでは神の手をもつ外科医と称されています。香月先生から「モンゴルでも世界保健機関(WHO)や日本を含む国々が支援して肝がん対策を行っているにもかかわらず、死亡率世界ワースト1位が続いている」という話を聞いた私は、モンゴルで長年、肝がん対策を行ってきたムンクジャーガル医師(ウランバートル・ロータリークラブ会員)と幾度もインターネット会議を行いました。佐賀県で行っている肝がん対策システムについて説明したところ、「佐賀方式」独自の連携システムに大変関心を持っていただきました。

2017年にはモンゴルからムンクジャーガル医師や関係者の方々が、佐賀ロータリークラブ、医学部長、病院長を訪問。2018年にはモンゴル保健大臣から佐賀大学学長への協力要請があり、正式に佐賀ロータリークラブと佐賀大学肝疾患センターによるモンゴルの肝がん対策に向けた協力が始まりました。また、ウランバートル・ロータリークラブがロータリー財団グローバル補助金を活用してプロジェクトを提唱し、第2740地区も資金面で支援しています。

2017年に初めてモンゴルを訪問し、「肝炎医療コーディネーター」の養成に対する関心が高いことがわかりました。モンゴルでは医師を含む医療従事者が少なく、また国民の半分以上が遊牧民として離れ離れで生活しているため、健康を含む情報発信が十分に行き渡っていないのです。

早速、2018年11月に日本語が堪能なウランバートル・ロータリークラブのロータリアン、ブルガンさんがモンゴル人として初めて日本の肝炎医療コーディネーター研修を佐賀県で修了されました。さらに12月には私たちが現地に赴き、ウランバートルの隣にあるトゥブ県の約200名の医療従事者向けにモンゴルで初の肝炎医療コーディネーターの養成、および佐賀方式の連携による肝炎・肝がん対策の支援を行いました。

その後、世界はコロナ禍となり、訪問が途絶えていましたが、その間も現地では着々と佐賀方式の推進が継続され、モンゴルで新たに2県で肝炎医療コーディネーターの養成が行われました。これらのコーディネーターの活躍と地域の医療機関の連携構築により、多くの県民が肝炎ウイルス検査を受けてデータベースに登録し、治療からフォローアップまでを見届ける佐賀方式システムの成果が出ていました。

ロータリアンとなり、頭を丸坊主にして活動を継続

2020年、私は佐賀大学を辞し、実家の病院を継ぐことになりました。その際に、香月先生から「これからはロータリアンとして諸外国の肝炎・肝がん対策に頑張ってみないか」とお声をかけていただき、香月先生と同じ佐賀ロータリークラブに入会させていただきました。

ロータリアンとなって初めての訪問は、モンゴルで最も高い肝がん死亡率の県であるスフバートル県への医療支援が目的でした。同県でも2021年に肝炎医療コーディネーターの養成を皮切りに佐賀方式が導入され、約3,500名の新規の肝炎ウイルス検査を受け、数百名の感染者が新たに判明していました。

今回の活動支援地であるスフバートル県の四つの村は、それぞれの村が四国ほどの面積である一方、人口は1000人前後で、首都ウランバートルから約800キロメートル離れた中国国境に接しています。大草原を約15時間かけて走破しようやく到着できる、まさに辺境の地です。

食事は村々で唯一の医療センターで患者さんに提供される食事をご馳走になりながら、宿泊はモンゴル伝統のゲルと呼ばれる円形のフェルトでできたテントでの寝泊り。水道も風呂も電源もなく、トイレも医療センターで貸してもらえるだけの環境でしたので、渡航前には頭髪を丸坊主にして行きました。

私は腹部エコー検査と技術指導が役割でしたが、1日80名以上に検査を行い、驚く数の進行した肝臓病を発見し、モンゴル人医師らにもその後の治療などについて指導ができました。県庁での成果報告会ではスフバータル県知事から感謝状をいただきました。

2018年からのモンゴル訪問は計6回となり、徐々に佐賀方式による素晴らしい成果が出ています。肝炎対策はSDGsにも掲げられた世界共通の課題であり、モンゴルの肝炎対策に私たちの医療技術支援がお役に立てているのは、大変嬉しいことです。今後もモンゴル全土で、そして肝炎対策を抱える世界の国々でお役に立てることを期待しています。

【寄稿者プロフィール】
江口 有一郎(えぐち ゆういちろう)

福岡県久留米市出身。佐賀医科大学卒業。佐賀大学医学部 肝疾患医療支援学教授、附属病院肝疾患センター長、同付属病院肝疾患センター特任教授、国立感染症研究所客員研究員などを歴任。2020年4月から医療法人ロコメディカル(佐賀県)副理事長、同法人ロコメディカル総合研究所所長。2020年4月から佐賀大学医学部臨床教授、2021年4月から兵庫医科大学特別招聘教授。ミクス「おすすめ講師ランキング」全国1位(若手部門および全体部門)、佐賀新聞文化賞、佐賀県政功労者知事表彰等、モンゴル国スフバータル県立医療センター・県知事賞などを受賞。趣味は自家用航空機操縦、マリンダイビング、アウトドア全般。

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