一つの出会い、一つの行為が大きな変化に
寄稿者:河地妙美(日本ロータリーEクラブ2650会員)

パンデミックが世界を席巻する今、私たち社会の危うさが一層あらわになっています。せわしくアップデートされる世の中では、失望や怒りが渦巻き、大切な思いやりや共感、そして対話を忘れてしまったかのような出来事が報道されています。
でも私たちはひとりではありません。人が動けば、水面に石を投げ入れた時のように、その影響は周囲に広がっていきます。私たちには、未来のために良いことを行う力があります。出会いによって別の世界が現れ、ひとつの小さな行為が大きな変化を起こします。
人と人の出会い、そこで生まれるつながり、そのつながりの連鎖が、社会を動かします。ロータリー会員である私は、これを幾度となく体験してきました。私はこれを、「Magic of Rotary」と呼んでいます。
SOSに応える
ロータリーが新しい補助金モデル(「未来の夢計画」)の試験的プログラムをしていたときのことです。私の地区が試験地区となり、私が職業研修チーム(VTT)委員長を務めることとなりました。
当時、私は環境問題に取り組むグループに参加しており、そのメンバーから、ジャワ島(インドネシア)では慢性的な水不足のせいで、「村人たちが消えていく」と危うい話を聞きました。村人が田畑を捨て、働き手が次々に都会に出てしまうのです。私は地区財団委員長にかけあい、早々にこの地域でのプロジェクトにとりかかりました。
その村は、熱帯で雨が多いにもかかわらず、水が不足していました。ともかく急がれるのは、村に水を供給し、人々が生活を取り戻すことでした。両国のクラブで、すぐさま持続可能な農村地帯の復興を目標にしたVTT(職業研修チームの派遣)を計画しました。また、ここでの成功がほかの地域でも役立つように、公開ワークショップも実施しました。さらに、生活用に十分な水量を溜める雨水タンクを設置して村中に給水し、余剰水があればろ過して飲料用に販売することで、村の立て直しを図りました。
もうあれから何年も経っていますが、以来水不足は解消し、自立した村では大切にメンテナンスしています。
プロジェクトでの出会いが次のプロジェクトへ
ジャワ島でのプロジェクト現場に赴いた私は、そこでVTTメンバーであったネパール系アメリカ人、アチャヤさんと再会しました。日本で博士号を取得したというアチャヤさんは、今はアメリカにある水研究所の所長を務めています。現地に滞在中、私はアチャヤさんらと毎日のように、今世界に蔓延する水問題について話しました。その時、ネパール大地震の被災地の深刻な状況について聞きました。
そこはネパール山間部の農村で、少数民族の混じる社会は複雑でした。細い山道を登った先にある村の被災状況は悲惨で、水はもちろん、医療も教育も、何一つとして充分ではありません。私たちはここでもプロジェクトを実施することに決めました。
現地調査の末、まずは皆に安全な水を供給しようと決定。水質の良い湧き水を山から引くことで、安全な水を村人に提供しました。しかし、問題は水だけではありません。運よく協同クラブには立派な銀行家がおられ、女性専用マイクロクレジットが承認されました。これで子どもたちは日課の水汲みから解放され、学校に通うことができ、母親たちは野菜を育て、収入を得て家計を学びました。そして嬉しいことに、貸付台帳に初めて自分の名前を書いた女性たちが、読み書きを覚え始めたのです。働き者の彼女たちに自分のための目標ができました。
平和フェローとの貴重な出会い
私は、国際基督教大学(東京)のロータリー平和センターで開かれる年次セミナーには、毎年必ず足を運びます。誰もが人間らしく生きることのできる世界を実現するには、そのために働くリーダーの育成が急がれます。そんな世界の課題を担うのが、ロータリー平和センターです。フェローたちと話せば、地球の未来が明るく祝福されたようで、希望を感じます。

私の地区でも、難民支援に取り組んでいた女性を、チュラロンコーン大学(タイ)の平和フェローシップに推薦しました。チュラロンコーン大学での彼女の修了式に出かけた私は、そこでも多くのフェローと出会いました。
当時は難民危機と呼ばれており、タイで出会ったドイツ政府で働くフェローの紹介で、青年難民の生活を支援する社会統合プロジェクト(ドイツ)に参加しました。ドイツ社会には責任を担う組織があり、彼ら一人ひとりを尊重するロータリーの保護は手厚く、見事な連携で支援が続けられました。それでも、祖国を逃れ生き延びた彼らは、疲れ切っていました。それぞれのファミリーヒストリーを背負いながら、異国での焦燥感を募らせていました。
ある日私は、逃れ着いたばかりの女性と洗面所で出会いました。彼女はここで髪を洗っていいかと尋ね、会釈する私を見つめました。今もその目を時々思い出します。もう会うこともないのに、気がかりです。厳しい条件下で懸命に生きる人びとの姿は、私たちの人生と分かち難く、傍観者ではいられません。同じ時を生きる人たちと互いの人生が交差する時、いつも無性に命の尊さを感じます。
ロータリアンであることは「可能性のパスポート」
人と人とのつながりから、アイデアが生まれ協力する。志を共にしているからこそ、成果として実を結ぶ。ロータリアンであることは、可能性のパスポートです。数奇な出会いがあり、知らなかった現実、そして真実と向き合うこともしばしばです。
Magic of Rotary。ロータリーにいる限り、私の出会いにはまだ先があります。私はチャレンジを続けようと思います。明日もまた、どこからかSOSが届くかもしれないのですから。

【寄稿者プロフィール】
河地 妙美(かわち たえみ)
30代でペンクラブ会員となり、幾度となく国際ペン世界会議に出席。EUに暮らし、欧州の政府機関などで広報官として仕事に従事。帰国後の2004年にロータリー入会。世界理解と平和を標榜する国際組織の一員として、自らの経験が役立つことを願ってさまざまなプログラムに参加。クラブと地区で主に国際奉仕に関わり、研究グループ交換、職業研修チーム、グローバル補助金の地区委員長を歴任。
【最近の記事】
>> 都市養蜂で「自然+コミュニティ」のスタイルを
>> トーストマスターズとロータリー:東京で力をつなぐ
>> 緑の散歩道プロジェクト