「あれから10年」

〜東日本大震災を振り返る〜(第1回)

寄稿者:菅原 裕典(仙台泉ロータリークラブ会員)

葬儀屋として大勢の犠牲者を弔う

大規模な遺体安置所となった体育館

東日本大震災の死者は、関連死も含めれば約2万人、いまなお行方不明の方は2千人以上います。現在、私たちを取り巻く新型コロナウィルスによる世界的なパンデミックも未曾有の事態が及ぼす災禍であると言われていますが、10年前に発生した東日本大震災という未曾有の災害で、私は、自分の職業を通じて力を捧げなければならない状況に直面しました。

東日本大震災の発生や被害状況については既知の通りですが、葬儀社を経営している私に求められたのは、多くの犠牲者をどのように弔うかという待ったなしの課題でした。自治体の要請を受けて数千本の棺を調達し、全国の同業者から大きな支援をいただきながらこれを組み立て、県内各地に輸送し、安置所での納棺までを指揮し続けました。

しかし、納棺まではしたものの火葬が追いつかないという事態となりました。岩手や福島など、被害の大きかったそれぞれの地域で判断を強いられましたが、私の会社がある宮城県では、自治体の判断によって仮埋葬(土葬)という極めて特殊な手段が講じられることとなりました。当初は自衛隊がその任を担っていましたが、やがて民間に引き継がれ、私の会社で請け負うことになったのです。こうした前例のない任務をどのように行うべきか迷いもありましたが、弔いにおいてはご遺体が主役であり、最も尊い存在ですから、普段の葬儀とは異なるにせよ、可能な限り儀式として厳粛に行うように努めました。

災害対策本部長として指揮を執る菅原さん

4月上旬から仮埋葬された棺は、5月になると順番に掘り起こして火葬を行うようになり、専従チームの社員たちは、暑い最中に土中で腐敗してしまったご遺体を火葬するために、泥だらけになって過酷な任務を遂行しました。8月半ば、震災で亡くなった方の新盆が明けた頃に、石巻市内で仮埋葬された約700名の方の火葬がようやく終わりました。

突然孤児となった子どもたち

ある日、石巻市での仮埋葬に立ち会った時のことです。曇天のもと、殺風景な土葬地に小さな少年がいました。その少年は、親戚と思しき年配の男性に付き添われ、周囲に促されるままに小さな手でスコップを持ち、墓穴の中にある二つの棺にお別れの土をかけていたのです。その光景がどうしても気になり、仮埋葬が終わった後でスタッフに尋ねたところ、どうやら両親を亡くし、親戚に付き添われて仮埋葬に立ち会っていたというのです。

私は強い衝撃を受けました。このように両親を亡くしてしまった子供は他にもたくさんいるはずで、今後の生活はどうなってしまうのだろうか。目の当たりにした現実をそのままにはしておけず、すぐさま、ロータリーの仲間を中心に震災孤児支援をおこなうNPO法人を立ち上げました。さらに、ロータリーの仲間だけではなく、もっと幅広い分野に支援の輪を広げ、震災で孤児となってしまった子どもたちが成人になるまで、息の長い支援を行う活動を始めたのです。

その団体の名は、「JETOみやぎ」。未来へ向かう飛行機に乗った子どもたちが、それぞれの「生命(いのち)の物語」に向かって健全に飛び立つことを願い、英語で「for Japan Earthquake & Tsunami Orphans in Miyagi (東日本大震災とその津波による宮城県の震災孤児に支援の手を)」の頭文字を取ったものです。間もなく10年目を迎える現在は、認定特定NPO法人として活動を続けています。

できることを精一杯やる

その後は、発災から間断なく続いた任務について、経験に基づいた「防災意識」の発信をしようと考え、各地で講演をする機会がありました。同時に、万が一、同じような規模の災害が別の場所で発生した場合の参考になればと思い、携わった社員には、当時の資料をまとめて記録誌を発行してもらい、全国の同業者や自治体に無料で配布しました。

弔いとは人生そのものに関わる重要な行為ですから、その役割を担う私たちは、亡くなったそれぞれの方の人生に思いを馳せ、その尊厳を守らなければなりません。この度のパンデミックにみられるように、いつ、何が起こるか予測できない中で、自分は生かされていると思っています。人はこの世に生を持って生まれてきた限りは、必ず死を迎えます。限りある生だと強く感じるからこそ、全力で人生に向き合うことができるのです。このような職業観と死生観が、東日本大震災で、精一杯の力を尽くすことができた原動力だったと思います。

「JETOみやぎ」で支援し続けている子どもたちも、10年で大きく成長しました。支援を始めた時に最年少だった子は、1歳8カ月でした。少なくともこの子が20歳になるまでは支援を続けるのが当初からの目標ですので、そういった意味ではまだ道半ばだと思っています。

最後に、東日本大震災をはじめ、災害で犠牲になった方々の魂が安らかであることを祈念いたします。

【寄稿者プロフィール】 
菅原裕典(すがわら ひろのり)
仙台生まれ。株式会社 清月記 創業者・代表取締役。現ロータリーコーディネーター、国際ロータリー研修リーダー。NPO法人「JETOみやぎ」創設者・理事長。『東日本大震災 葬送の記~鎮魂と追悼の誠を御霊に捧ぐ』(PHP出版)を著作・出版

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