日本のマイノリティに光をあてる平和フェロー

「多様性・公平さ・インクルージョン(DEI)」シリーズ第4回

寄稿者:ファラ・ハスナイン(国際基督教大学 ロータリー平和フェロー)

「私の目標は、アメリカに対する生徒たちの見方を変えること。日本での英語教員は白人が圧倒的多数ですが、アメリカの真のアイデンティティがいかに多様で多面的であるかを身をもって示したいと思います」

2014年、日本の高校での英語教員としてJETプログラムに参加するため、私は申請書にこう書きました。当時、このことが私の日本生活にどれほどのインパクトを与えるかは想像もしていませんでした。教壇に立ち、居眠りする生徒を起こし、日本のコピー機の使い方に頭を悩ませる毎日を過ごすうち、浜松市(静岡県)の田園風景と工場の煙の中に、もう一つの世界が存在することを少しずつ意識するようになりました。

浜松市は、日本で移民人口の最も多い町のひとつで、約9200人のブラジル人が住んでいます(2018年現在)。ほかにも、ペルー、インドネシア、ベトナム、フィリピンからの出稼ぎ労働者がいます。私が「日本の故郷」と呼ぶこの町に引っ越してきたとき、ブラジル移民やペルー移民の長い歴史が日本にあること、そしてその歴史が少なくとも1873年にまでさかのぼることを知りました。

異文化を背景にもつ生徒や友人たちは、しばしばそのルーツを、長所ではなく、むしろ厄介なことと考えます。外見が日本人のようであれば、外国のルーツを隠して日本人で通用している生徒もいます。帰国子女やバイリンガル/トライリンガルの生徒の多くが、目立つことを恐れて、自分の英語力を見せないようにします。

こうした生徒たちの素顔と、社会から求められる顔とのギャップを何とか埋めたいと考えた私は、この問題について生徒たちと対話することから始めました。文章だけの論文や本を読ませる代わりに、日本社会で異文化のルーツをもつ人たちが抱える複雑な事情を紹介したドキュメンタリー映画『ハーフ』を生徒たちに見せました。この映画を通じて、マイノリティ(少数派)の人びとの経験が現実であり、しかも身近にあることに気づいてもらいたかったのです。

生徒たちは皆、この映画に真剣に見入っていました。感想文には、授業でのディスカッションよりも率直な思いがつづられていました。学期が終わる頃には、多くの生徒が、ハーフの同級生たちの気持ちに共感できるようになりました。また、自分が在日外国人であることを告白する生徒もいました。

私が「ロータリー平和フェローシップ」の存在を知ったのも、この映画が理由でした。この映画を監督した一人、西倉めぐみさんは、元ロータリー平和フェローです。西倉さんが自身の体験を基にこの映画を制作したのは、フェローシップでの体験がきっかけだったことを知りました。ハーフとしての苦労や気づきについて西倉さんの話を聞いた私は、多様で複雑なマイノリティの人たちを助けたいと、真剣に考えるようになりました。これらのコミュニティに属する多くの知り合いから、自分のアイデンティティを受け入れるに至った体験談を直接聞くこともできました。

浜松で私は、日系ブラジル人か日系ペルー人であるとよく勘違いされます。しかし、私がアメリカ人であることを相手に伝えると、とたんに対応が良くなることがあります。そのような経験もあり、十分な研究がされていないこのトピック、すなわち、日系ブラジル人と三世たち(現在20代前半)の体験に光をあてたいと思うようになりました。

2020年、私は、西倉さんと同じ国際基督教大学に平和フェローとして入学しました。日本の学校に通った日系ブラジル人三世と、日本にあるブラジル人学校に通った日系三世の比較研究について論文を書く予定です。これらのコミュニティの人たちから今後も話を聞き、その体験をより大きな媒体で多くの人に紹介していけることを願っています。Asian BossといったYouTubeチャンネルや、バイラルを引き起こしたナイキのCMなどが次々と出てくる中で、多文化の日本のアイデンティティに関するこうした対話が、いずれ受容の文化を生み出すと信じています。


【寄稿者プロフィール】
ファラ・ハスナイン(Farrah Hasnain)
アメリカ出身。2014年にJETプログラムの英語教師として来日。自身の研究や体験について『ジャパンタイムズ(The Japan Times)』等大手メディアへの寄稿多数。2020年に国際基督教大学のロータリー平和センターでフェローシップを開始


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