寄稿者:大和 豊子(岡山南ロータリークラブ、チームポリオジャパン)
GPEI(世界ポリオ根絶推進活動)から毎週報告される野生株ポリオ発症数は、2018年の33例(パキスタン12例、アフガニスタン21例)と比べて、2019年は173例(パキスタン144例、アフガニスタン29例)とパキスタンで爆発的増加を示しています(2020年2月4日現在)。2020年にも新たな症例が報告されており、非常に厳しい現実です。

2019年12月、パキスタンのNIDs(全国予防接種日)に2日間参加した私たち「チームポリオジャパン」の13人は、現地のロータリアンから「2020年の発症を0にする」という意気込みを聞いたばかりでした。
三桁となっている理由は、ワクチン接種を拒否する人が依然として多いこと、またSNSなどで流れる誤った情報でポリオワクチンへの恐怖心があおられていることだということで、これから少しの間はまだ増えるかも知れないな〜と心配しています。

街中は厳重な警護
パキスタンのNIDsでは2日間とも、戸別訪問による生ワクチン投与活動を行いました。初日は現地のロータリアンがホテルに迎えに来てくださり、マイクロバスで出かけました。街中にも警護兵、装甲車が散見され、まだ安全とは言い切れない印象を受けました。
1日目はポリオサポートセンターから始まり、ロータリーの支援を受けたソーラーシステム・水フィルター設備を視察。「安全な水を供給することで、人びとを集め、ワクチンの必要性をアピールする方針」だそうです。

チョークで壁に記録
次いで、ガルシャン・タウンというカラチのスラム街に入りました。比較的穏やかな雰囲気で、拒絶する家族はほとんどいません。ポリオワーカーは携帯用の冷却ポーチを持って行動していました。 住民票代わりの台帳を作成していましたが、壁に記録をチョークで書いてから、台帳に転記していました。記録するのは、「何月何日、何人の子どもにワクチンを投与」とか「この家に遊びに来ていた子どもで投与したのは何人」、「次はこっちの方向に行く」といったことです。
午後からは何百キロという遠方から高速バスでカラチに入ってくる子どもたちにワクチン投与をする作業でした。高速道路の要所に「PTP」(Permanent Transit Post)というロータリーが支援する予防接種の常駐所が設けられており、高速バスをここに誘導します。通れないほど超満員のバスの中に、警護兵とポリオワーカー、ロータリアンが乗り込み、かき分けるようにして5歳未満の子どもを見つけては、左手小指の油性ペンマークを確認して、マークのない子どもにワクチン投与するのです。「もうしている」とか「しない」と強い口調と目つきで拒否する父親も多く見られました。

冷却ポーチを見せるポリオワーカー
2日目はマチャーコロニーという最底辺のスラム地域で、初日より拒絶する家族が多い印象でした。「困っているイスラム教徒はすべて受け入れる」というパキスタンの人は、自分の食べるものを分けてでも助けたいという気持ちのようで、アフガニスタンやバングラデシュからここに住みついた人も多いそうです。ここでも、クリーンウォーター供給施設を見学しました。
午後はカラチ・カントンメント駅でのワクチン投与活動。すごい人混みで、なかなか立ち止まって説明を聞いてくれる人はいません。パキスタンの人びとに、ポリオに感染してまひが起きるとその子の人生に大きなハンディーキャップを負わせるということ、それがワクチンという手立てで予防できることを知ってもらうことは、非常に重要です。

ロータリーが支援する安全な水供給施設
2度も水供給施設を視察したのは、ワクチン投与よりもまず必要なのは安全な水、という人びとの声に配慮し、水を汲みに来た人たちにワクチンの重要性をアピールすることを第一の戦略と考えているからです。チームポリオジャパンに急遽同行したイスタンブールのガバナーエレクトから、「クリーンウォーター施設設置を、日本の地区あるいはクラブと合同で支援できないか」と提案がありました。検討の余地がありそうです。
パキスタンのポリオ根絶活動を成功させるために、パキスタン政府、パキスタンのロータリアンも多大な努力をしています。彼らの行動を高く評価し、物心ともに支えて行くことが大切だと思っています。
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