回答者:日本のロータリー財団地域コーディネーター(RRFC)
日本では現在、海外労働者の受入拡大を2019年4月に控え、自治体がさまざまな状況を想定した準備を進めています。また、世界で深刻化している難民問題を受け、日本での受入れに関する議論も盛んになっています。どのような状況になったとしても、地域社会で大きな動きがあった場合は、地元ロータリークラブの出番となることが考えられます。
今回の「倫理的ジレンマ」では、このような世界の情勢変化の余波を受けたクラブでのジレンマを取り上げました。
「Aさんのクラブでは、海外文化交流を通じた平和推進のための奨学金を地元高校生に提供するため、募金活動を行いました。Aさんが担当者となり、会員みんなで募金しました。
資金が集まり、正式に地元高校で公表する段階となったとき、地元の移民支援団体から連絡が入りました。それは、紛争から逃れるため、家族みんなで日本にやってきた学生の支援に協力してほしいというものでした。その学生は地元高校に編入しましたが、まともな学生生活を送るための資金援助が必要でした。
そこで、クラブ理事会で話し合いが行われ、その結果、意見の相違はあるものの、この援助が平和に関連し、深刻なニーズに応えるもので、地元高校生の支援であることに変わりはないという理由から、募金で得た資金をこの学生の支援に充てることを決定しました。
しかし一部の会員は、「海外文化交流を通じた平和推進」という当初の目的とは異なる資金の使われ方に疑問を抱いています。また、これでは当初の目的に共感して募金してくれた人たちの期待を裏切る可能性があると感じています。
募金活動を担当したAさんは、苦情を言う人はいないだろうと思いつつ、資金の高い透明性を保つことが必要だと感じています。また、今後の募金活動で不測の事態に対応するために何ができるかと思案しています。このようなとき、あなたならどうしますか? 」
第1ゾーンRRFC
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池田 德博(鶴岡西ロータリークラブ)
まずは、クラブ全体で話し合い、従前の募金の目的の変更について協議し、仮に目的変更するとの結論が出た場合は、その経緯を説明する内容のクラブニュースを発行し、会員に周知のうえ、理解を図るということではどうでしょうか。
第2ゾーンRRFC
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舟木 いさ子(東京白金ロータリークラブ)
募金活動をするときは、その使用目的と給付対象を明記して行うものです。それを変更することは、その趣旨に反することになり、募金協力者への期待を裏切ることにもつながります。
今回の募金活動の目的は「海外文化交流を通じた平和推進のため」で、「地元高校生」が対象でした。しかし、クラブ理事会の話し合いの結果で、「紛争地域からの難民で、地元高校に編入したが経済的に困窮している高校生の生活を援助する」となると、「地元高校生」という対象は同じであっても、その使用目的は、当初の「海外文化交流を通じた平和促進」とは著しく異なってしまいます。
募金で集めた資金の目的外使用を一度認めてしまうと、ロータリークラブ全体の募金活動の信頼性が失われてしまう可能性があります。このため、使用目的や給付対象を変更することは避けるべきであると考えます。
第3ゾーンRRFC
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田村 泰三 (山口県・柳井ロータリークラブ)
Aさんのクラブで話し合って結論を出すことが原則であると思います。日本の学生は世界の情勢を十分に把握していないと思います。移民支援団体は世界の状況をよりよく知っていると思われます。この人たちからも情報をいただいてクラブの意見をまとめるとよいと思います。
このようなことは海外文化交流を通じた平和推進につながると思います。人道支援は小さなことをつなぎ合わせて多様性のある支援が必要だと思います。そのような経験や理解を積み重ねて、多くの人たちが成長していくことが重要であると思います。
ロータリー財団は、アカウンタビリティと資金の透明性に基づいて慈善団体の格付けを行う団体「チャリティナビゲーター」により、10年以上連続で最高評価を受けています。高い評価を得ることができるのは、各地のクラブによる賢明な資金使用があればこそです。クラブでは、地域社会のニーズに最善のかたちで応えようと、会員が知恵を寄せ合って活動しています。
これまでに当ブログでは、日本のロータリーコーディネーター(RC)とロータリー公共イメージコーディネーター(RPIC)からのご回答を含む「倫理的ジレンマ」も発行しました。今回の案件と合わせてご覧ください。
>> 倫理的ジレンマ:あなたならどうする?(候補者の選出、RC)
>> 倫理的ジレンマ:あなたならどうする?(クラブへの影響、RPIC)
(執筆担当:加藤まさ)
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