米山奨学生の底知れぬ可能性にふれて

~ ロータリアンとなった元・米山奨学生から奨学生に潜在する力について学ぶ ~

日本のロータリーが世界に誇る米山記念奨学会にとって、2018年は躍進の年となったのではないでしょうか。昨年の財団設立50周年に続き、2月には米山梅吉氏の生誕150周年行事が盛大に開催。ロータリー会員からの支援を受け、これからも米山の歴史は語り継がれ、未来の平和を担う奨学生が育っていくことでしょう。

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ラシタ・エリヤーワさん

本稿では、ひとりの元米山奨学生をご紹介します。スリランカ出身のラシタ・エリヤーワさん(甲府南ロータリークラブ会員)です。人懐こい笑顔ではきはきと話すラシタさんは、米山支援の意義、ロータリーにとっての米山の価値、そして世界平和にとっての重要性を物語る人です。

2001年、スリランカでの内戦で学業が困難となったため来日。山梨学院大学で経営情報学を学んでいたときに米山奨学金について知り、カウンセラー制度に魅力を感じて申請しました。

しかし、あえなく落選。それでも、なぜ落ちたのかを見直して再び挑み、晴れて2006-07年度米山奨学生となりました。甲府南ロータリークラブがスポンサーとなり、カウンセラーや当時のガバナーが影となり日向となりサポートしてくれたそうです。

現在は山梨県にある半導体製造・装置メーカーに勤め、チームリーダーとしてソフトウェア開発を担っています。海外顧客への対応では文化の違いが課題となるものの、元米山奨学生ならではのグローバルな経験と、ロータリアンとの交流で磨かれた対人コミュニケーション力を生かして、企業の発展を支えています。

「人に役立つものをつくる充実感がある」と仕事への熱意を語るラシタさんですが、ロータリーを通じたさまざまな奉仕活動にも力を入れています。中でも注目したいのが、スリランカでの医療支援プロジェクトです。

特産品を生かした資金集め

医療支援に関心を抱いたのは、友人の母の死がきっかけでした。AED(自動体外式除細動器)があれば助かったかもしれないという話を聞き、母国での医療ニーズ、特に都市部から離れた場所でのニーズについて考えるようになりました。

テリペヘ村はそのような遠隔地の一つです。標高2000mにあるこの村は、首都コロンボから200kmほどであるものの、険しい山道のため移動には6時間以上かかります。

そこにはAEDよりもはるかに基本的な医療ニーズがありました。医療施設はあっても医師は一人のみ。訓練を受けた人は数名いるものの看護師はいません。点滴や血圧計などの基本的なものが不足しており、水道がないので井戸から水を汲まなければなりません。

ラシタさんは、医療機器を寄贈することを決めました。ロータリアンにも支援をお願いすることになったのですが、そこで役に立ったのが世界で名高いスリランカの紅茶です。テリペヘ村でも生産されており、ラシタさんは日本での入手が難しい最高級の茶葉を母国から取り寄せ、その紅茶を地区大会でふるまって支援をお願いしました。

こうした工夫は、支援者と受益者のつながりを築くことにも役立ちます。また、ラシタさんが所属する第2620地区では、学友の活動をロータリアンに伝えるようにしており、協力クラブ・会員には報告書も送っています。

このプロジェクトで、鼻腔栄養チューブ、血圧計、酸素調節器、縫合セットなどの医療用具だけでなく、地元生徒200名への文房具もあわせて寄贈することができました。

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スリランカ・テリぺへ村の人たちと一緒に。

今後も海外支援に力を注いでいきたいと話すラシタさんは、プロジェクトの効果をさらに高めるための工夫も検討しています。一つのポイントは、「ロータリーへの依存」という課題への対応です。国際奉仕プロジェクトでは、善意の物資提供がロータリアンへの依存を生み、受益社会の自立に向けた意欲を奪ってしまうことがあります。

現在、教育支援プロジェクトに関心を寄せるラシタさんは、依存リスクを下げるために学校や親との密な協力が必要と考えています。また、子どもたちだって「夢の設計」を行うことで参加できると話します。「こんなことができたらいいな」という子どもたちの言葉や絵に、プロジェクトの大きな可能性が眠っています。

米山学友と協力することのメリット

ラシタさんのような米山学友と協力して得られる、ロータリアンにとってのメリットは何でしょうか。

円滑なコミュニケーション: グローバル補助金プロジェクトの管理を担ったことがある方ならご存知でしょう、海外の協力者との連絡がいかに骨の折れる作業であるかを。ニーズ調査や日程・資金管理方法の確認など、プロジェクト実行前の確認だけで多くの連絡が必要となるだけでなく、場合によっては通訳を手配したり、何度も現地に足を運んだりしなければならないこともあります。グローバル補助金が導入された当初、連絡の複雑さと忙しさからノイローゼ気味になってしまったという会員の話を聞いたこともあります。

その点、米山学友のネットワークを通じることで、連絡がスムーズになります。ラシタさんが導いた医療プロジェクトでは、日本人はおろか他国の人を見たことがないという人が多くいる山奥の村が舞台でした。そこの医療施設には電話もなかったそうです。しかし、母国での人脈や学友会の助けを借りることで、計画から実行までの時間を短縮できました。

受益社会での細かい配慮: 海外プロジェクトでは、地域社会のニーズを把握し、現地協力者と諸手配を確認することに加え、地元住民の心情に配慮することも大きなインパクトを生むカギとなります。ラシタさんのプロジェクトでは、地元のお坊さんを招いてお経をあげてもらい、寺院への備品提供も行われました。地元の宗教関係者から理解を得ることによって、村人からの信頼を得て、プロジェクトに協力してもらうことが可能となるからです。このような細かい配慮は、行政や多忙なビジネスリーダーとの連絡だけでは見落とされてしまう可能性があります。

ロータリーの組織的プロジェクトであるポリオ撲滅活動でも同じことがいえます。都市部から離れた地域社会で予防接種を行うときは宗教・部族リーダーとの連絡が重要で、パイプ役となってくれる人の存在が欠かせません。米山学友は、このようなパイプ役としての役割を担える可能性も秘めています。

将来のクラブ会員となる可能性: ラシタさんは最近、甲府南ロータリークラブに入会しましたが、最初から入会に関心があったわけではありません。10年以上前に奨学金を受けたときにクラブで話をする機会があり、いつか入会したいとの言葉をもらしたそうです。機会があれば入会したい...これは、よくある断りの常套句かもしれません。しかし甲府南クラブは、ラシタさんのことを温かく見守り支援しつつ、その言葉を忘れませんでした。会社に勤務しながらの参加が難しいことを考慮したクラブは、ラシタさんが入りやすいような工夫を取り入れました。ラシタさんは、そのようなクラブの配慮から自分が必要とされていると感じ、入会を決意しました。

「米山奨学生は優秀なスキルをもった人ばかりなので、なんとか入会できるような仕組みを各クラブで作ってほしい」とラシタさんは訴えます。そのような工夫から多くを得られるのは、学友ではなく、むしろクラブなのかもしれません。

第2620地区学友会

ラシタさんがメンバーとなっているロータリー第2620地区学友会(静岡・山梨)には、中国、台湾、韓国、ベトナムの出身者が多く、スリランカやバングラデシュ出身の人もいます。毎年、ロータリアンと一緒に、日本三大清流の一つ柿田川で清掃活動を行っています。

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日本三大清流・柿田川での清掃プロジェクト

2019年3月に10周年を迎える同学友会は、静岡県長泉町の米山梅吉記念館を例会場としています。同学友会はロータリアンとのコミュニケーションをさらに深めていくことに熱意をもっているため、関心のある方は記念館への訪問前に連絡をとってみてはいかがでしょう。

米山奨学生の活躍にご注目を!

本ブログでは、これまでに4回、米山学友の活躍を紹介する記事を掲載しました。これらもぜひご覧ください。

>> 剣道世界選手権に挑む (中国出身の楊さん)
>> 日本の小説との出逢い (ベトナム出身のチュオンさん)
>> 日本のリハビリ医療をアフリカで生かす (トーゴ出身のアヘゴさん)
>> 矛盾から希望へ そして更なる光へ (韓国出身の黄さん)

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米山梅吉記念館の入り口で。近くには「日本ロータリーの父」米山梅吉翁のお墓もありますが、長泉町には米山姓が多いので、ほかの米山さんのお墓とお間違えのないようご注意を。

(執筆担当:加藤まさ)

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