寄稿者:長谷川幸雄(第4690地区[ボリビア]補助金小委員会委員長、チュキアゴマルカ・ロータリークラブ所属)
「水頭症」とは、子供の場合は頭の肥大、大人の場合は想像を絶する頭痛を伴う病気です。
今から20年ほど前、ボリビアのRTPテレビ局が水頭症患者救済キャンぺーンを大々的に行いましたが、残念ながら、結果は好ましくなく悲惨なものでした。脳内に溜まった水を取除くには特殊なバルブが必要で、当時の価格で300ドル、最低賃金のほぼ10倍で、貧しい家庭にとっては負担できない額だったのです。医者である私の知人は、頭痛薬アスピリンを処方するしかないという状況でした。当然、患者は激痛に耐えながら悲痛にも死に至るという現状でした。
向笠会長の言葉がきっかけに
当時(1999年)、私は頭の大きな5歳の子供と初めて出会い、大きなショックを受けました。その子供の母親は「この子は頭が大きいから、きっと将来大物になるよ」と自慢する次第です。子供病院の脳外科医が母親に向って「息子さんは水頭症という病気なので至急受診しなさい」と言いましたが、その母親には受診するお金もなく、途方に暮れ去って行きました。
私はその母親の後姿を見送った時、日本人として二人目の国際ロータリー会長で、1983年にボリビアを訪れた向笠会長のお言葉を思い出しました。向笠会長は「プロジェクトを立ち上げればロータリー財団より貧しい人びとのために人道救済援助金が得られる」とおっしゃたのです。これが解決策ではないかと、私はその時確信しました
粘り強さと工夫で課題を克服
向笠会長の言葉を胸に、いざ実態調査をすべく、厚生省と統計局を訪れるも、どちらにもプロジェクト作成に必要なデータがないという返事ばかりでした。調査専門家を雇うお金もありませんので、時間がかかっても、病院や診療所を一軒一軒訪ねてデータを集めざるを得ませんでした。また、年に一度の地区大会を利用してデータ収集に力を尽くしました。そんな訳で、調査には数年を要しました。
海外クラブとロータリー財団より援助を受けるには、自己資金が必要です。私の所属するチュキアゴマルカクラブで私が会長を務めていた2000年に、大企業からの人道支援を仰ぐべく「優秀企業へのポール・ハリス トロフィー授与」を立ち上げ、そのかわりに企業より自発的な資金援助を得ることができました。初年度はわずかでしたが、2、3年で1万5千ドル程集まりました。
同時に、プロジェクト原案を作成し、JICAへ留学が決まった元会員を通じて、2710地区ガバナー川妻二郎氏へ原案を提示しました。川妻氏の命を受けた東広島21クラブ初代会長、故・大原憲太郎氏が、2003年2月にボリビアを訪問。ラパスは高地にあるため高山病になりながらも、当時のム二ョス厚生大臣をはじめ、多くの方と面談、さらに我がクラブの会員とも懇親を深め、貧困層の水頭症患者へのバルブ提供プロジェクトが必要であることを痛感されたようです。
54,500ドルのプロジェクト申請書を財団へ提出し、7カ月後に承認されて、ついに2004年7月からバルブ提供がスタートしました。
受益者たちとの触れ合い
その後、こんなこともありました。ラパス中心地にある私の店に、ある日、子供をおんぶした現地のインディオ系の女性が突然現れ、「息子が水頭症で生死状態にあるから、すぐにバルブが必要だ」と大声で泣き叫びました。店の前に大勢の人だかりができ、「チニート」(アジア系外国人の俗称)がボリビア人をいじめているから早く警察を呼べと大騒ぎになりました(幸い、1時間後には何とか落ち着きました)。
ただしこれは珍しいことで、ほとんどの場合、バルブ提供の4、5日後には私のところに家族と一緒に来て、「おかげで助かった」と晴れやかな笑顔で挨拶されて帰ります。私は医者ではありませんが、世の役に立つことができたかと思うと嬉し涙を抑えきれません。一部の例外を除けば、ほとんどの患者さんは平常に日々の生活を満喫しています。これこそ、私たちが目差したゴールです。
苦労もあれど甲斐も大きい補助金プロジェクト
水頭症の悲惨な現状を脱却すべく、チュキアゴマルカクラブ(私の所属するクラブ)が実態調査の実施を決断してから約20年。今日までに、ボリビア全国(9州全域)で、通算1004人の水頭症患者にバルブを提供し、多くの人の命を救うためのお役に立つことができました。
これもひとえに日本とボリビアのボランティア、会員、そしてロータリー財団の三者が一丸となって努力した賜ものだと思います。多くの方々が私たちを信頼してくださったおかげだと深く感謝しております。
途中さまざまな困難もありましたが、ここにその一端を記すことで、これをお読みの皆さまにとって後々何らかの形で参考になれば幸いです。
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